京都市上京区の立本寺公園(仁和公園)廃止に関する情報をまとめたウェブサイトです

はじめに

 2016年3月31日、京都市と日蓮宗本山・立本寺との土地賃貸借契約期間満了に伴い、50年以上にわたって地域に親しまれてきた立本寺公園(仁和公園)が廃止されようとしています。このウェブサイトは、この決定がどのように行われたのか調べたことを情報共有するために個人的に開設されました。
 また、立本寺(仁和)公園を愛する会が設立されました。そのFacebookページも合わせてご覧ください。→Facebookページへのリンク →会のチラシ


公園跡地に建物が立った後の予想図(住民側作成)

立本寺公園廃止の経緯

 京都市が立本寺から土地を借りる形で昭和29年に整備された仁和児童公園は平成28年(2016年)3月いっぱいで廃止される見込みである。今回の件に関して、京都市から提供された説明資料や、説明会での口頭説明などからわかったその経緯は次のとおり。

 2014年11月、平成26年度での借地契約期間満了に伴う新たな契約に向けての京都市と立本寺との話し合いにおいて、立本寺が契約更新に難色を示す。その主な原因の一つとして、賃貸料の問題があると思われる。京都市が立本寺に支払う賃貸料は2003年より年額100万円であったが、これは上京区の約1,800㎡の土地を考えると相場よりもかなり低い金額である。結局、この時は京都市が賃貸料の値上げを検討することを前提に低い賃貸料のまま契約が更新される。ただし契約期間はそれまでの3年間から1年間になる。
 2015年6月25日(木)、平成27年度での借地契約期間満了に伴う京都市と立本寺との話し合いがもたれる。京都市は借地契約の更新を申し出たが、立本寺から平成27年度で契約を打ち切る意向を示された。
 2015年7月16日(木)、検討の結果京都市から年額約770万円までであれば支出可能である旨、立本寺に申し出があった。さらに京都市からは借地契約の更新が不可能な場合、境内地の買収したい旨も打診があった。しかし、立本寺はこれを断った。
 2015年7月24日(金)、京都市からの電話での問い合わせに対して立本寺は役員会で、有料老人ホームの建設計画を進めるため、借地契約の更新を正式に断るとの返答を行った。翌25日(土)、京都市から再度電話で面談の要請があったが、立本寺はこれを断った。
 2015年8月4日(火)、京都市と立本寺の面談が三度もたれ、立本寺に対して再考、および公園廃止の場合の代替地の提供についての要請があった。立本寺からは更新を行わない意向が示されたが、できる限り敷地内での代替公園を確保するよう努力するとの発言があった。

 以下文書的裏付けに乏しく、筆者には経緯が正確にはわからないため概略にとどめる。2015年11月、京都市から仁和連合会(?)に対して仁和児童公園廃止の説明があった(ただし、この時点で文書の各戸配布などによる学区全体への周知は行われず)。同じころ、公園跡地を借り受け、老人ホームを設置する予定の業者による公園敷地内でのボーリング調査および、埋蔵文化財調査が行われた。2016年1月、広報誌『仁和だより』(?)に仁和児童公園廃止についての情報が掲載される。
 2016年2月9日(火)、有料老人ホームの建築主であるチャーム・ケア・コーポレーションによって、仁和寺街道に面した立本寺敷地内に「(仮称)チャームスイート京都立本寺 建築計画の概要」の看板が設置され、その後2016年2月14日(日)2016年2月27日(土)に建築計画の説明会が開催される。1回目の建築計画の説明会では、公園廃止にまつわる疑問も参加者から多く出されたが、当然業者は説明できないため(説明する義務が無いため)、京都市に対して公園廃止の詳しい経緯について説明を求める声が高まる。また、2回目の説明会では、建築に伴って公園敷地内の24本の樹木が伐採されることが明らかになった。
 2016年3月10日(木)、仁和会館で京都市による、公園廃止についての説明会が開催された(→京都新聞の記事)。この説明会では、京都市みどり政策推進室と北部みどり管理事務所は「あえて」地域住民に立本寺との交渉の経過や結果を現在まで知らせなかったこと、そして交渉においては教育委員会や消防局など京都市の他の関連部局と連携をもたなかったことを認めた。

立本寺公園廃止手続きへの疑問

 今回の仁和児童公園の廃止手続きは少なくとも形式上、法的には問題がないものと考えられる。都市公園法第16条によると、「公園管理者は、次に掲げる場合のほか、みだりに都市公園の区域の全部又は一部について都市公園を廃止してはならない」とあるが、今回の仁和児童公園の廃止は、その第3項に掲げられている「公園管理者がその土地物件に係る権原を借受けにより取得した都市公園について、当該貸借契約の終了又は解除によりその権原が消滅した場合」に該当する。
 しかしそれでもなお、やはり以下の理由により今回の仁和児童公園の廃止手続きには問題があると考える。

京都市は仁和児童公園の維持のために本当に努力したのか
 国土交通省の「都市公園法運用指針」によると、上で述べた都市公園法第16条3項に該当する場合でも、「都市公園が土地収用法第3条に規定する収用対象事業であることに変わりはなく、借地契約が終了した場合でも、土地所有者等の意向のみにより都市公園が廃止されるものではないことから、公園管理者の判断が必要となる」とある。つまり、仁和児童公園の廃止はあくまでも京都市の判断である。
 情報公開請求により京都市みどり政策推進室から提出された「仁和公園に関する協議等」によると、京都市側は再三にわたり立本寺側と交渉を重ねた結果として公園の維持を断念した様子がうかがえるが、これが実際にどのようなものだったのか確たる証拠が無い。とりわけ筆者は、金銭的な交渉が行われたのだとすれば、どのような調整が京都市内で行われたのかが知りたい、との理由で組織内共有されたメールも含む公文書一式を請求したが、開示されたのはこの「仁和公園に関する協議等」のみである(しかもこれはおそらく業務上の文書というよりは、今回の情報公開請求に合わせて作ったメモであろう)。
 この文書によると、京都市は立本寺に対して「770万円までであれば、支出する」、「借地契約の更新ができないのであれば、境内地を買収させてもらえないか」との旨、申し出を行ったとのことだが、誰がいつその予算的裏付けを与えたのかがわかる文書が示されていない。これだけの予算措置を伴う決定が口頭だけで行われたとは考えにくい。つまり、本当に京都市内で真摯に仁和児童公園を維持するための予算的措置について検討が行われたのか、疑問である。

京都市は住民への説明をもっと早く行うべきだったのではないか
 上の経緯にあるとおり、京都市(みどり政策推進室)は2015年8月4日(火)の時点で立本寺との契約更新を断念しているにもかかわらず、年度内で公園が廃止になる件について、11月になるまで仁和学区の自治会連合会にも伝えなかった。地域住民に至っては、筆者の実感として過半数が公園の廃止を正式に知ったのは、2016年1月から2月にかけてのことである。
 普通この時代、公園が無くなるということは想像外のことであり、その情報が突然、しかも経緯も知らされることなく与えられることによって、多くの地域住民は大きな不安を覚えた。情報がもっと早く、正確に伝えられていれば精神的にも、物理的にもさまざまな準備ができたはずである。結局、住民の要求により仁和学区民全体に対する京都市からの正式な説明が行われるのは、公園の廃止まで1ヶ月を切った2016年3月10日である。このように地域住民の生活に大きく影響を与える事柄についての正確な情報の伝達が遅れたのは、問題であると考える。

公園の廃止という高度に政策的な決定を現場のルーチンで行って良いのか
 京都市は、都市公園の整備方針において緑化および防災の観点から公園の整備を重視する政策を打ち出している。つまり、京都市にとって公園を整備する、あるいは廃止するという決定は高度に政策的あるいは政治的な判断といえる。しかし、今回の仁和児童公園の廃止の経緯を見るに、すべての判断がみどり政策推進室および北部みどり管理事務所という現場の日常業務の延長線上でルーチンとして行われている可能性が濃厚である(筆者は情報公開請求の際、立本寺との交渉の際、どのレベルで判断が行われたのか、上級部局に対してどのようなことを諮ったのかわかるような文書を求めたが、そうしたものは何も出てこなかった)。
 仁和児童公園の廃止により、仁和学区の公園面積の約半分が失われることになる。そして今後、それと同等の規模の公園が学区内に整備される可能性はほとんどない。また仮に整備されるにしても莫大なコストがかかることが予想される。こうした重要な判断を、先に述べたように法的な手続きに則っているとはいえ、現場の判断だけで行ったことは遺憾である。仁和児童公園の廃止は、その性質上、もっと上位の決定、最も望ましくは市民の代表である市会の決定により行われるべきなのではないか。

(以下、2016年3月11日追記) まとめると、今回の件にかんする最も深刻な問題は、やはり市の決定に利害当事者である地域住民が一切関与できなかった、ということにつきる。3月10日の京都市による説明会において、みどり政策推進室は立本寺の要望がある限り仕方ない、という立場をとっていたが、上にも述べたとおり公園廃止を決定するのはあくまで公園管理者である京都市である。そして京都市は地方公共団体であり、その決定に市民がかかわるのは当然の権利である。ましてや京都市は市政およびまちづくりへの市民参加を推進する方針を打ちだしている。
 説明会では、みどり政策推進室はあえて今回の件を秘密交渉にしたこと、あるいは地域住民にその過程を現在進行形で伝える必要は無いと考えていたことを認め、謝罪した。確かに私人間の契約交渉であればいくら住民の利害が関係あることでも、住民に対して交渉の過程を明らかにする義務はない。しかし一方が公人である場合、その過程を住民に明らかにし決定に加われるようにする必要がある。立本寺も公人と契約している以上、これを承知している必要がある。みどり政策推進室にはこのあたりの認識が欠けていたと思われる。
 以上の点をふまえ結論として、公園廃止を決定するにあたって、当然反映されるべき地域住民の声があえて反映されないようにした点で今回の決定には瑕疵があり、もう一度、住民の意見を取り入れ、教育や防災などの観点もふまえつつ(つまり教育委員会や消防局も一緒になり)決定をやり直す必要があると考える。

立本寺公園廃止に関する資料

  • 仁和公園に関する協議等
  • 仁和児童公園廃止に至る京都市と立本寺との交渉の経緯についての京都市側の説明(情報公開請求による京都市みどり政策推進室からの提供)
  • 土地賃貸借契約書
  • 京都市と立本寺の仁和児童公園の土地賃貸借契約の内容がわかる文書(情報公開請求による京都市北部みどり管理事務所からの提供)
  • 仁和公園に関する借地契約期間について
  • 京都市と立本寺の仁和児童公園の土地賃貸借契約の過去に遡っての更新期間、借地料の変遷がわかる資料(京都市会議員からの提供)
  • 平成28年度予算要求書
  • 「借地公園に係る借地料に要する経費」について平成28年度予算においていくら要求されたかがわかる文書(情報公開請求による京都市みどり政策推進室からの提供)
  • 樹木位置図
  • 公園廃止とその後の建築計画により、どのような樹木が何本伐採されるのかがわかる文書(京都市みどり政策推進室からの提供)

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